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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)7589号 判決 1975年3月13日

原告(反訴被告) 大泉建設株式会社

右代表者代表取締役 根本栄樹

右訴訟代理人弁護士 小島将利

同 浦田数利

被告(反訴原告) 佐々木詔一

右訴訟代理人弁護士 真木洋

主文

原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する本訴請求はいずれもこれを棄却する。

被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する反訴請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、本訴反訴を通じて、これを三分し、その二を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告(反訴被告、以下単に「原告」という。)

(一)  被告(反訴原告)は、原告に対し、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地・建物を引渡し、かつ、右土地・建物につき昭和四八年五月二二日付売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(二)  被告(反訴原告)は、原告に対し、原告から金六三〇万円の支払を受けると引換に別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地・建物についての浦和地方法務局志木出張所昭和四八年三月一日受付第一〇、八三三号をもってなされた所有権移転請求権仮登記および同法務局同出張所同日受付第一〇、八三二号をもってなされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

(三)  被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

(四)  訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

(五)  (一)、(二)、(四)項について仮執行の宣言。

二  被告(反訴原告、以下単に「被告」という。)

(一)  原告は、被告に対し、金三三万七、一〇〇円およびこれに対する昭和四九年四月七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告は、被告に対し、昭和四八年一〇月一日から別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地・建物に対する仮処分解放に至るまで一ヵ月金一万八、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(三)  原告の本訴請求を棄却する。

(四)  訴訟費用は原告の負担とする。

(五)  (一)、(二)、(四)項について仮執行の宣言。

第二本訴について

一  請求原因

(一)  原告は、昭和四八年五月二二日、被告から、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地・建物(以下「本件不動産」という。)を、代金一、二三〇万円、手付金二〇万円は契約と同時に支払うこと、残代金は同年六月三〇日限り所有権移転登記申請手続と同時に支払うこと、売主は買主に対し本件不動産の所有権移転登記時までに抵当権その他一切の権利登記を抹消することの約定にて買受けるとともに同日手付金二〇万円を被告に支払った。

(二)  ところが、被告は、株式会社住宅ローンサービスから金六三〇万円の融資を受けて本件不動産についての浦和地方法務局志木出張所昭和四八年三月一日受付第一〇、八三三号所有権移転請求権仮登記および同法務局同出張所同日受付第一〇、八三二号抵当権設定登記手続を経由していたところ、株式会社住宅ローンサービスでは六の数字の日でなければ借入金を返済しても右の各登記を抹消することができないことが判明したため、原・被告は、その後協議の上、本件売買残代金の支払と所有権移転登記の履行日を昭和四八年七月六日に変更した。

(三)  そして、原告は、昭和四八年七月六日の期日までに残代金を現金にて被告に提供したうえ、本件不動産について所有権移転登記手続をするよう求めたが、被告がこれに応じないため、昭和四八年七月一四日、東京法務局受付第五二、六三八号をもって金五八〇万円(売買代金一、二三〇万円から手付金二〇万円と株式会社住宅ローンサービスからの融資金六三〇万円を控除した金額)を弁済のため供託した。

(四)  よって、原告は、被告に対し、本件不動産の引渡と本件不動産につき昭和四八年五月二二日付売買を原因とする所有権移転登記手続を求めるとともに原告から金六三〇万円の支払を受けると引換に本件不動産についての浦和地方法務局志木出張所昭和四八年三月一日受付第一〇、八三三号をもってなされた所有権移転請求権仮登記および同法務局同出張所同日受付第一〇、八三二号をもってなされた抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。

二  被告の答弁

(一)  請求原因第一項の事実のうち、被告が昭和四八年五月二二日原告に対し本件不動産を代金一、二三〇万円で売渡し同日手付金二〇万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。残代金の支払時期と所有権移転登記申請手続をなすべき日は昭和四八年五月三一日でありかつ抵当権その他一切の権利登記の抹消は原告から残代金を受領した際になす約定であった。

(二)  同第二項の事実のうち、被告が株式会社住宅ローンサービスから金六三〇万円の融資を受けて本件不動産について原告主張の各登記を経由していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同第三項の事実のうち、原告がその主張の日に金五八〇万円を東京法務局に弁済のため供託したことは認めるがその余の事実は否認する。

(四)  同第四項の主張は争う。

三  被告の主張

(一)  本件売買契約に基づく残代金の支払と所有権移転登記手続は昭和四八年五月三一日になすべきことになっていたので、同日被告は、準備完了の上自宅に待機していたが原告から何の連絡もなかった。その後も被告は、他からの借入金の返済に迫られていたため、幾度も原告に対し、残代金の支払を催告したが、原告から「金はない。」と断られた。

(二)  そこで、被告は、やむなく、昭和四八年六月三〇日発信の内容証明郵便をもって、原・被告間の本件売買契約を解除する旨の意思表示をなし、右書面は、翌七月一日原告に到達した。

(三)  よって、原告の本訴請求は理由がない。

四  被告の主張に対する答弁

(一)  被告の主張第一項の事実は否認する。

(二)  同第二項の事実は認める。

(三)  同第三項の主張は争う。

第三反訴について

一  請求原因

(一)  原告は、昭和四八年七月一七日、本件売買契約に基づく所有権移転請求権を被保全権利として東京地方裁判所に対し、本件不動産の処分禁止を求める仮処分命令を申請してその決定を得、同日その旨の登記を経由した。

(二)  しかしながら、本件売買契約は、すでに昭和四八年七月一日限り解除によって消滅したものであることは先に述べたとおりであるから、原告の仮処分命令の申請・執行は違法であるのみならず、原告は、被告が仮処分の執行前別紙物件目録(一)記載の建物を賃貸使用せしめていた訴外伊藤俊文外三名に対し、同人らの建物使用は原告の仮処分命令に違反すると称して脅迫し、強制的に右建物から退去させたが、被告は、伊藤俊文外三名に対し、立退料、慰藉料等として昭和四八年九月二一日までに合計金一九万二、五〇〇円を支払うことを余儀なくされ、さらにその後右建物を新たに第三者に賃貸して賃料を得るに至る昭和四九年二月八日までの間合計金一四万四、六〇〇円の得べかりし賃料収入を失った。また、被告は、昭和四八年一〇月頃から原告の仮処分執行解放に至るまで原告の入居者に対するいやがらせを防ぐ目的のため、右建物の一室に留守番を無料で置くこととしているが、このことにより右一室を貸すことによって通常得ることのできる一ヵ月金一万八、〇〇〇円の割合による賃料相当額の損害を被っている。

(三)  よって、被告は、原告に対し、原告の不法行為を理由として右の損害金三三万七、一〇〇円およびこれに対する本反訴状送達の日の翌日である昭和四九年四月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに昭和四八年一〇月一日から仮処分執行の解放に至るまで一ヵ月金一万八、〇〇〇円の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  反訴請求原因第一項の事実は認める。

(二)  同第二項の事実は不知ないし否認し、同項の主張は争う。

(三)  同第三項の主張は争う。

第四証拠関係≪省略≫

理由

第一本訴請求について

一  原告は、昭和四八年五月二二日、被告から、本件不動産を、代金一、二三〇万円で買受け、同日手付金二〇万円を支払ったことは当事者間に争いなく、≪証拠省略≫を総合すれば、残代金一、二一〇万円は昭和四八年五月三一日所有権移転登記申請手続と同時に支払う旨の約定であったことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

なお、この点に関し、原告は、本件売買残代金の支払期日ははじめ昭和四八年六月三〇日であったところ、後日原・被告間の協議上同年七月六日に変更された旨主張するが、これにそう原告会社代表者の供述部分は、たやすく信用し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

二  ところで、被告が昭和四八年七月一日到達の内容証明郵便をもって、原・被告間の本件売買契約を解除する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争いがないので、その解除の当否について判断する。

まず、≪証拠省略≫を総合し、弁論の全趣旨に鑑みると、被告は昭和四七年一二月二〇日頃本件不動産を訴外豊住建設株式会社(社長根本栄樹)から代金一、一三〇万円で買受けたものであるが、豊住建設株式会社が約束どおり別紙物件目録(一)記載の建物(アパート)の入居者を斡旋しなかったので投下資本が全く回収できないのみならず、被告の勤務する会社の社長から本件不動産の購入のために借受けた金一五〇万円も昭和四八年五月末日までに返済する見込みがなくなったため本件不動産を原告会社に転売することになったこと、本件売買残代金の支払と登記は昭和四八年五月三一日にすることになっていたので、当日被告の母親である佐々木チヨヱは、原告会社の社長根本栄樹が被告宅を訪れるものと思って一日待機していたが、出頭せず、かつ何らの連絡もなかったこと、その後佐々木チヨエは、幾度も原告会社に電話して早急に代金の一部でも支払ってくれるよう懇請したがこれに応じなかったので思案の末弁護士真木洋にその解決方を相談することになったこと、被告の母親佐々木チヨヱから事情を聴取した弁護士真木洋は、昭和四八年六月三〇日、原告に対し、原告の残代金支払義務不履行を理由として原・被告間の本件売買契約を解除する旨の内容証明郵便を発信し、同書面は翌七月一日に原告に到達したことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

そして、右認定の事実によれば、本件売買契約は原告の残代金支払債務の不履行により昭和四八年七月一日限り解除されたものと認めるのが相当である。

もっとも、本件売買契約は双務契約であるから、右契約中先履行義務とされた原告の手付金二〇万円の支払義務を除くその余の原・被告らの各義務は、前示のとおり昭和四八年五月三一日を期限とし同時に履行されるべきものであるところ、被告は右期日までに所有権移転登記手続に必要な書類を準備していたと認めるに足りる証拠はないが、≪証拠省略≫によれば、被告の母佐々木チヨヱと原告会社の社長根本栄樹とは昵懇の間柄にあって被告が豊住建設株式会社から本件不動産を購入した際にも根本栄樹が所有権移転登記株式会社住宅ローンサービスからの借入手続、抵当権設定手続を代行したものであり、かつまた本件売買についても所有権移転登記、ローンの返済手続、抵当権設定登記の抹消手続等を同人が代行することになっていたものであるうえ、被告はすでに権利証を同人に預けており、印鑑証明書、住民票等の書類も区役所の出張所が近所であった関係上要求があればわずか数分間で準備調達することが可能であったことが認められ、右認定に反する証拠はないから、被告においては、信義則上前示所有権移転登記の現実の履行提供はもとよりその言語上の提供をしなくても、原告に残代金不払に基づく履行遅滞の責任を問うことは許されるべきものと解するのが相当である。

三  してみると、本件売買契約が有効に存続することを前提とする原告の本訴請求は、理由がないものというべきである。

第二反訴請求について

一  原告は、昭和四八年七月一七日、本件売買に基づく所有権移転請求権を被保全権利として東京地方裁判所に対し、本件不動産の処分禁止を求める仮処分命令を申請してその決定を得、同日その旨の登記を経由したことは当事者間に争いない。

ところで、被告は、まず右仮処分命令の申請・執行が違法で不法行為を構成する旨主張するので考察するに、まず、本訴請求についての前示認定、判断によれば、原告の仮処分命令の申請・執行は、一応被保全権利を欠く不適法なものであったといいうるが、右仮処分命令の申請・執行が不法行為を構成するがためには、結果的に当該仮処分が被保全権利や必要性を欠いていたのみでは足りるものではなく、右仮処分命令申請・執行の動機ないし目的、その仮処分申請・執行の前段階で原告がとった行動ないし態度など、その行為の違法性の有無を判断するために不可缺な原告の主観的事情が明らかにされなければならないものというべきところ、本件においては、被告は、これらの事情について何ら主張・立証されないから、いまだ原告の本件仮処分命令申請執行が不法行為を構成するものとは断定し難い。

二  次に、原告は、被告が別紙物件目録(一)記載の建物を賃貸使用せしめていた伊藤俊文外三名を仮処分命令違反と称して脅迫し、強制的に右建物から退去させたとする被告の主張について判断するに、≪証拠省略≫の一部には、右主張にそう供述が窺われないではないが、この供述は、≪証拠省略≫に照して採用することができず、他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

三  してみると、被告の反訴請求もまたその余の点について判断するまでもなく理由がない。

第三結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求および被告の反訴請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

<以下省略>

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